《着物少女
どうも、ワシじゃ。今日からホラー系記事“シャレコワ”の案内役を務めるぞ。以後お見知り置きを

《OL
助手を務めますOLです。今日はブログ主が昔いたずらに書いたオリジナルの創作ホラー小説を披露しようと思います。タイトルは「古本屋にて」

《着物少女
皆様は古本屋に立ち寄ったことはあるかの?あの黴臭さと、山積みにされた古書。まるで異世界のような雰囲気が魅力的じゃが、長居は禁物かもしれんぞ・・・?


●創作ホラー小説「古本屋にて」

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 まだ私が高校生だったころ。実家の近所に、かなり年季の入った古本屋さんがありました。

 無類の本好きだった私は足繁く通い、海外小説の単行本やら、少し前の日本人作家のハードカバー小説なんかをよく購入していました。

 店主を務めていたのは、70代前半だと思われるおじいさん。店の一番奥のカウンターでいつも売り物の本を読みながら、気だるげに店番をしている姿を、今でも鮮明に覚えています。

 店主さんは無口な人だったので、親しげに会話することはありませんでしたが、私が何十回も訪れるものだから、さすがに顔を覚えてくれ、会計の際に一言二言言葉をかわすようになりました。

 あんなことが起きず、大学生になっても、社会人になってもずっとあの店を利用できていれば、どんなによかったことでしょう――。


 あれは高校2年生の夏休み。課題に必要な芥川龍之介の小説全集を探すために、その日も例の古本屋さんに行きました。

 扉を開いて、むせ返るような独特の黴臭さを感じたのはいつものことだったのですが、何か店内の様子がおかしい。いつもより薄暗いんです。

 「変だな。今日は休みなのかな?」と思って入り口のドアを見てみたのですが、特にそんな注意書きはありません。恐る恐る店の奥に入ってみると、カウンターにはいつものように店主のおじいさんが座っていたのです。「いらっしゃい。やってるよ」と声をかけてくれたので、私はホッとして本を探し始めました。

 でもその古本屋さん、一般的な本屋さんとは違って、本を棚にバラバラに置かれていたんですよね。普段、適当に古本を冷やかしたいときは気にならないのですが、目的の本を見つけようとするのはすごく大変で。

 ただ、目当ての小説全集はかなり大きなサイズの書籍だと分かっていたので、ゆっくりとお店のすべての本棚端を端から端まで、見逃さないように見つめながら、店内を歩いていきました。

 かれこれ20分は探し回ったでしょうか。努力の甲斐もむなしく、目当ての本を見つける前に、全ての本棚を確認し終えてしまいました。

 小さくため息をついて、本棚から目を離した時。ようやく私は、周囲の様子がおかしいことに気付いたんです。

 暗すぎるんですよ。

 ただでさえ薄暗かった店内が、いつの間にか一段と暗くなっていて、手元の本の背表紙の文字がかろうじて読みとれるぐらいになっていました。なぜこんなに暗いのだろう。ううん、それよりも、こんなに店内が暗いのに、なぜ私は違和感を覚えなかったのだろう。そう思うと、急に寒気がしてきて・・・。

 なんだか、ここに居たらいけない気がする。そう思って出口に足を向けようとしたとき、背後から「お客さん」という低い声がして、思わず飛び上がりそうになりました。

 恐る恐る振り返ると、声をかけたのは店主のおじいさんでした。店内が暗すぎて、表情まではよくわからないけれど、さっきカウンターに座っていたあの人だということは声でハッキリとわかりました。うっすら見える服装も、先ほどチラリと見えた彼の装いと同じでしたし。

 私はなんだか肌寒さを感じながらも、「・・・あの、なんでこんなにお店の中が暗いんですか?」と恐る恐る尋ねてみたんです。でも店主さんは私の言葉には答えてくれず、「お客さんが探してる本はこっちだよ」と言って背中を向け、お店の奥に向かって歩き始めたんです。

 少し躊躇いましたが、顔見知りなんだし大丈夫。蛍光灯が一斉に切れちゃったとか、停電とか、そんな理由なんだろう。欲しかった全集の場所まで案内してくれるならいいじゃないか。そう自分に言い聞かせて、後に続きました。

 店主さんについていき、カウンターを抜け、さらに奥。従業員しか立ち入らないスペースへと通されました。不思議に思いつつも黙ってついていくと、そこには幼児用と思われる背の低い本段がありました。あの大きな全集がこの本棚に入るわけない。そう思ったのですが、おじいさんが無言で体を横にずらし道を譲ったので、反射的に「あ、ありがとうございます」と短くお礼を言いました。そして、ゆっくりと小さな本棚に近づき、そこに並べられている本を一応眺めてみたのです。

 当然、そこには全集なんてありはしません。その代わり、ビッシリと文庫本が詰め込まれいました。その文庫本、全部変なんです。

 背表紙に、「地獄行き」とか、「耳削ぎ」とか、「顔面溶かし」とか、意味不明で気持ち悪い文字ばかりが書かれているんです。ゾッとしました。こんな気持ちの悪いタイトルの本なんて、私は探していない。

 そこでやっと気づいたんです。私は今日、店内に入ってから、さきほど店主さんに声を掛けられるまで、彼とは一言も会話をしていない。なのに、なぜこの人は、私が「何の本を探しているのか」を知っていると言ったのだろうか。

 「肝食い」「悪い子への罰」「臓物」「子供の腸」・・・見たくない、見たくないと思うほど、本棚に並ぶ気色悪い文庫のタイトルから目が離せなくなりました。体が震えて、寒気が止まらなくて、涙があふれそうになっていく。

 「目潰し」「犬の目玉」「死にました」「自殺の日」・・・気色悪い言葉から目を離せないまま、私は小さく「なんですかこれ、こんなの、私、探してません」と声を絞り出しました。情けなく震えた声だったのを覚えています。

 本棚から無理やり目を引き離して、おじいさんの方に向き直ると・・・彼は何も喋らずに立ち尽くしていたのです。

 「ごめんなさい、私、帰ります!」私は叫ぶように言い放ち、転がるように来た道引き返しました。カウンターを出て、一目散に店の入り口へと走りこみ、体当たりするようにドアを開いて外に出て、その後は、背後も振り返らずに一目散に自宅へ逃げ帰ったのです。

 そんな気味の悪い事があって以来、私はあの古本屋さんに二度と行きませんでした。私が大学生一年生の秋ごろ、ひっそりとその店は潰れ、取り壊されました。

 噂では、店主のおじいさんがおかしくなってしまい、お店をやるのもままならなくなってしまったから閉店したのだとか。でも本当のことはわかりません。

 私はあの日、小さな本棚の前で金縛りにあったように動けなくなったあの瞬間のことを、永遠に忘れられないでしょう。目に飛び込んでくる不気味な文章。薄暗い店内。黴臭いにおいと、ひんやりと冷たい室温。

 それに、暗くてハッキリとは見えなかったのですが、傍に立ち尽くしていた店主のおじいさんは。

 私を見下ろしながら、笑っていたような気がするのです。